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楡心会会員からのメッセージ

高田 修

(1972年学部卒業、元横浜少年鑑別所長)

サンチャゴ・デ・コンポステーラ

1972年に卒業し、以来ずっと法務省で矯正関係の仕事に従事してきた。旅行は好きだったが、職務の性質上、施設に被収容者を抱えているという事情があり、特に海外については、気軽に旅行をする訳にもいかなかった。2009年に退職した後、それまでの欲求不満を晴らすかのようにあちこちと出かけるようになった。近年はスペイン北西部のガリシア州にあるキリスト教の聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラに至る巡礼路歩きに親しんでいる。

サンチャゴとはキリスト教の12使徒の一人である聖ヤコブのスペイン名でフランスではサンジャックという。西暦813年、スペイン北西部ガリシアで、長らく行方不明になっていた聖ヤコブの遺骸が再発見され、その地にアストリアス国王アルフォンソ2世が聖堂を建てさせたのがサンチャゴ・デ・コンポステーラの始まりとされている。世界史でも習った通り、イベリア半島は8世紀にイスラーム勢力に席巻されたが、これに対するキリスト教側の巻き返しが国土回復運動(レ・コンキスタ)である。長い戦いの過程において、聖ヤコブはスペインのキリスト教徒の守護聖人とされ、熱烈に信仰されるようになった。彼の遺骸が安置されているサンチャゴ・デ・コンポステーラは、イェルサレム、ローマと並びキリスト教の三大聖地とされ、11,2世紀頃の最盛期には、ヨーロッパ各地から年間50万人もの信徒が巡礼した年もあったという。教会や修道会、王侯貴族を始め、兄弟団といった市井の篤志家などがこぞって巡礼のための施設を開設し、巡礼する人を支援した。その後サンチャゴ巡礼は長らく衰微していたが、最近急速に復活しつつある。たとえば、統計を取り始めた1985年には年間2491人に過ぎなかった巡礼者が、私が巡礼した2015年には26万2458人になっているという。中世の昔は、神の赦しを得るための贖罪の旅であったが、現代の巡礼の目的は多様である。観光やトレッキング、歴史的な巡礼地まで歩き通してみたいといった達成の動機などが多く、私の狭い経験からであるが、信仰のために巡礼する人はあまり見かけない。

サンチャゴ巡礼路には多くのルートがある。もっともポピュラーなのは「フランス人の道」で、国境近くのフランスバスク地方の町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからピレネー山脈を越えてスペインに入り、その後スペイン北西部を横断し、サンチャゴ・デ・コンポステーラに至るおおよそ800キロメートルに及ぶルートである。私が初めてサンチャゴ巡礼を経験したのは、2012年のことで、先に述べたアルフォンソ2世が巡礼したとされる「プリミティーボの道(最初の道)」を歩いた。この道はスペインのアストリアス州にあるオビエドという町を出発地にしている。次いで、2014年と2015年の2回に分け、「フランス人の道」を踏破した。サンチャゴ巡礼路はフランス国内を出発地とするものが多いので、今年はその代表的なルートである「ル・ピュイ」の道を歩いたが、途中で足首を捻挫し、中断のやむなきに至った。「ル・ピュイの道」はフランス、オーベルニュ地方の町ル・ピュイ・アン・ヴレを出発地にし、おおよそ730キロメートルを歩いてサン・ジャン・ピエ・ド・ポーで「フランス人の道」に接続する。足が良くなったら来年にでも行程の残り部分を歩くつもりでいる。

昔の巡礼者は杖と水筒代わりの瓢箪を持ち、聖ヤコブの象徴であるホタテ貝の貝殻を身につけて旅をした。杖と瓢箪はともかく、現代の巡礼者の多くもホタテ貝をリュックサックにくくりつけている。今でも巡礼のシンボルとして欠かせないアイテムなのである。実用的なものとして巡礼手帳(クレデンシャルという)が必要である。いわば巡礼用のパスポートというべきもので、これがなければアルベルゲ(巡礼宿)に泊まれない。また、クレデンシャルには教会やアルベルゲなどでスタンプを押してもらう。このスタンプが巡礼路上の町や村を確かに通過したという証明になる。サンチャゴ・デ・コンポステーラの大聖堂にたどり着いたときに巡礼事務所の係にクレデンシャルに押したスタンプを点検してもらい、要件 を満たしていれば、晴れてコンポステーラ(巡礼証明書)を発行してもらえる。なお、巡礼の手段は、徒歩か自転車、もしくは乗馬に限られる。馬が出てくるのは面白いが、昔は庶民が徒歩、身分の高い人や裕福な人は騎馬で巡礼していたので、その名残であろう。徒歩の場合はサンチャゴ・デ・コンポステーラまでの最後の100キロメートル以上を、自転車による場合は200キロ以上を連続して踏破すれば巡礼をしたと認められる。

巡礼のホタテ貝

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クレデンシャルに押したスタンプ

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前置きは以上にして、実際のサンチャゴ巡礼にご案内しよう。ここでは妻と2人で一昨年5月と昨年5月から6月にかけて歩いた「フランス人の道」を紹介する、スタートはフランスバスク地方の町サン・ジャン・ピエ・ド・ポーである。フランス人はもちろんのこと、他のヨーロッパ諸国からの巡礼者もここをスタート地点にする場合が多い。