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楡心会会員からのメッセージ

石川 健次 (1969年学部卒業、元法務省札幌矯正管区長)

鑑別技官の仕事を振り返る

入省

1970年に法務省に入り、以後37年間、矯正の分野で働いてきました。在学中は不勉強な学生で、合唱団(グリー)活動に打ち込んでいました。4年目も、東大安田講堂事件直前の1月に大挙して上京し、指揮者として東京公演を成功させました。そんなこんなで、卒論は何とか仕上げて卒業できたものの、民間会社勤務を経て、法務省入りは1年余り遅れることになりました。その際、児童相談所も選択肢の一つでしたが、小さな子供たちと交わるイメージが湧かず、一方、思春期の疾風怒濤や青年の自立の悩みには共鳴するところがあり、青少年が相手の矯正入りに迷いはありませんでした。

鑑別

矯正では、その3分の2を心理技官の最も重要な職域である少年鑑別所で勤務しました。以下、鑑別技官の業務を、若い頃の経験を中心に記載することにします。 主たる業務の収容審判鑑別ですが、その目的は、入所少年の資質の特徴や非行要因を明らかにして、改善更生のための処遇指針を立てることです。そのために、鑑別技官は少年と面接し、心理検査を行い、教官が行う行動観察やその他資料をも統合して、鑑別結果通知書にまとめます。

面接

面接室で対面し、自ら問題に向かい合おうとする来談者の自主性を尊重し、その内面を受容、共感しながら変化に寄り添っていく、これが一般的な心理臨床のイメージでしょう。鑑別所での心理臨床もそれに近いのですが、アセスメント(心理査定)に力点があることと、何より少年は自発的に来談したのではなく、非行によって心ならずも臨床の場に引き出されて来たことに特徴があります。

我々が少年の今後の決定に関与する立場にあるだけに、あからさまに反抗し、拒否的な態度を示す少年は稀ですが、それまでの幾多の経験を背景にした根強い対人不信があり、警戒的で、働きかけへの抵抗も強いのが通例です。迎合的に振る舞いながら、こちらを操作しようとする少年もいます。

面接では、信頼関係を結ぶことができるよう、できるだけ自然に接し、彼らがそうした反社会的ないし非社会的な態度、価値観を抱くに至った要因を共感的に理解しながら、粘り強く進めていきます。

駆け出しの頃、こんな失敗がありました。初回面接で聴き取った家庭環境や生育歴はそれとして理解したつもりでしたが、再度丁寧に聞き直したところ、実はすべてが嘘で作り上げたものだったのです。このこと自体が少年を正しく理解する重要な視点となった訳ですが、鑑別の場における大きな壁を思い知る、苦い経験でした。